富士山 富士五湖エリア

JoyFuL No.036

農業に捧ぐ人生最後のステージ

萱場和雄さん
プロフィール

鳴沢村鳴沢
萱場かやば和雄さん(62)
神奈川県鎌倉市より移住

「畑に森を」多様性のある畑づくりのために萱場さんが打ち立てたスローガンです。農薬や肥料を与えられずとも、種々の生物が自らの力と互いの力によって生命をつなげ、多様性を維持している「森」。同じことを畑で再現しようというこの試みをはじめ、萱場さんの農場『オルタ農園』には良い野菜を作るための工夫がいっぱいです。

 「オルタナティブ」とは現在あるものの代わりに選びうる新しい選択肢のこと。この言葉を冠した『オルタ農園』では、就農した若者が自立できるような新しい農業の基盤作りを目指し、地域に残る農業、持続できる農業の確立に取り組んでいます。
 『オルタ農園』代表の萱場さん、ご自身も30年前に鎌倉市から鳴沢村に移り住み、就農した一人。移住して就農する若者は有機栽培を目指す人が多いと言います。しかし、野菜の栽培過程からただ農薬や肥料を排除しただけでは作物が上手く育たないこと、また有機栽培での就農をバックアップする受け皿がないことなどから持続的な就農につながっていないのが現状だそうです。そこで萱場さんの『オルタ農園』では、独自の農法を公開し、見学者や農業体験希望者を募り、就農希望者を支援しています。
 萱場さんが試行錯誤の末に見つけた栽培方法は様々。スローガンに掲げる多様性のある畑づくりでは圃場(ほじょう)内に様々な種類の野菜を栽培することで、野菜たちが互いの持つ特性によって病気に強くなり、虫がつきにくくなるなどの効果が得られます。今年作付けされた野菜はなんと88種類、並べて栽培される相性のいい野菜同士は互いの生長に良い影響を及ぼしています。さらに同一科の野菜を同じ場所で連続して栽培する「連作」は行わず、土壌の養分が偏らないよう、その年ごとに植える場所を変える「輪作」の農法で栽培。化学合成農薬、化学合成肥料の不使用はもちろんのこと、土に混ぜる堆肥には鶏糞など地元の原料を活用、またその堆肥も3年に1回は与えず、土が本来持つ地力で土壌のバランスを整えます。
 こうして育てた野菜たちは、採れたてを生で頂く美味しさが一番の売り。地域に残る農業のために「地産地食(ちさんちしょく)」を信条とし、首都圏への野菜の配送は行っていません。あくまで地元にこだわり、地元レストランやホテルに愛された野菜たちは、収穫されたその日に萱場さんのもとを旅立っていきます。

切り拓いた道の先に見えてきたもの

 「有機野菜は人気があり収益が見込めます。農業は大変だけれど、若者が食べていけるくらいの基盤はできてきたから、就農する覚悟のある人には是非、鳴沢村に来てほしいですね」。自ら新しい農業の道を切り拓いてきた萱場さんの言葉には説得力があります。
 人生の最後は自然のある場所で過ごしたいと思い、30年前に鳴沢村に住まいを移しました。虫が発生しにくい涼しい気候や、首都圏から1時間ほどで来られる立地の良さも、鳴沢村を選んだ理由。そして鳴沢村で有機栽培をするにあたっての最大の利点は、野菜が採れるシーズンがエリア一帯の観光シーズンと重なること。富士山麓に人出が増える春から秋のシーズン、人気の有機野菜はどんどん売れ、新鮮な野菜が滞留することなく出回り、その美味しさに魅せられる人が増えています。「毎年お客さんが増えていくのが一番嬉しいな。良いものを作ればそれに応えてくれる人は必ずいるから。人に喜ばれるのは幸せなことですよ」。
 地域に残る農業、持続できる農業の確立のために、人生最後のステージをかけて農業に取り組んできたことが、毎年確かな成果を生んでいます。

(2013年8月取材)

圃場(ほじょう)に生えた草も一緒に鋤(す)きこむことで、その草がまた堆肥となり、循環していきます。

圃場(ほじょう)に生えた草も一緒に鋤(す)きこむことで、その草がまた堆肥となり、循環していきます。

 

一つの畑に多様な野菜を。こちらの圃場は手前にピーマン、奥にはナスを栽培しています。

一つの畑に多様な野菜を。こちらの圃場は手前にピーマン、奥にはナスを栽培しています。

 

無農薬でも虫食いひとつないきれいなピーマン。虫への対策にも知恵を絞っています。

無農薬でも虫食いひとつないきれいなピーマン。虫への対策にも知恵を絞っています。

カボチャだけで3種類と品種の多さも自慢。小さいものは坊ちゃんカボチャ、大きいものはハクシャクカボチャと九重栗カボチャ。

カボチャだけで3種類と品種の多さも自慢。小さいものは坊ちゃんカボチャ、大きいものはハクシャクカボチャと九重栗カボチャ。

 

「ナスも生で食べるのが一番おいしいよ。」と萱場さん。野菜の味には自信があります。

「ナスも生で食べるのが一番おいしいよ。」と萱場さん。野菜の味には自信があります。