甲府盆地 まちなかエリア

JoyFuL No.087

甲州金の謎解きをライフワークに

沓名貴彦さん
プロフィール

甲府市屋形
沓名くつな貴彦さん(40)
弘美さん(38)
千葉県習志野市より移住

沓名さんの生まれはトヨタ自動車のある愛知県で、部品会社が
多いモノ作りの町。トンボ玉やガラスのような無機材料が
大好きだった子ども時代の心象風景はいつまでも消えません。

 沓名さんは10年前、奥様と一緒に千葉県習志野市から甲府市に移住しました。県立博物館の建設を決めた山梨県が学芸員を募集したことがきっかけです。保存科学を専攻した大学院を修了して1年目だった沓名さんが、何十倍もの倍率のポストを獲得。「非常にラッキーでした。倍率もですが、僕の専門は文化財の管理や科学的な調査に関わる『保存科学』といって、滅多にポストに空きが出ない分野なんです。」と沓名さんは振り返ります。
 ラッキーだったのは、はたして沓名さんだったのか山梨県だったのか、5年後、沓名さんは、かねてから発掘調査が行われてきた勝沼氏館跡で、居並ぶ歴史関係者を驚嘆させる発見をします。見つかった土器片に極小の金の粒が付着していたことから、歴史文化の視点からしか捉えられていなかった土器片を科学の目で明らかにしてみせました。「土器に金が付いていたということは、勝沼氏館の内部では金を使った精錬や加工がなされていたという強力な証拠となりますよね」。この発見以来、沓名さんのライフワークの研究テーマは、「山梨県の金」になりました。さらに土器片を分析装置にかけると金以外に金鉱石に含まれる不純物の元素を確認し、勝沼氏館跡と武田氏館跡から発見された土器片の類似性や相違性も科学的に割り出すことができました。
 もともとは大学院で高分子化学を専攻していた理科系人間だったという沓名さん。2つの大学院での研究を通して、材料工学の知識からモノを見る分野へ興味が移っていきました。そこから古の宝物の成り立ちやその劣化を科学的に調査する保存科学の道にたどりついたそうです。「どんな物事も、2通りの見方ができます。まるっきり見当違いのようでも真逆な方向から接点をきわめていくと、そのはざまに思いがけない発見が潜んでいるかもしれません」。理系と文系の融合が、山梨の貴重な金の謎解きをしてくれたようです。

新しい命に伝える山梨の風景

 「子どもの頃、寺巡りが好きでした。それからきれいなトンボ玉やガラスのような無機材料。生まれは愛知県で、トヨタ自動車を支える部品会社が多いモノづくりの町。一見、関係ない子どもの頃の心象風景ですが、今、自分が携わっている歴史のある館跡に眠る文化財の調査保存に結びついているようにも思います。」と沓名さんは感慨深げに語ります。愛知県から千葉へ、さらに山梨へ移り住んできましたが、移住前、山梨はとても遠い所というイメージだったそうです。「来てみれば、とても東京から近くて便利。住みやすくて気に入っています。でも自然はあくまでも濃く豊かで、山岳信仰と結びついて、富士山や金峰山が厳かに土地を守り包んでいます。山菜や猪、鹿、熊のような獣肉の珍味の恩恵にも預かれるし、自然と人間の共生が実現できている所。皆に言いたいですね。山梨はあなたが想像している以上にいい場所ですよって」。沓名さんの好きな休日の過ごし方は、山歩きやハイキングですが、最近は全く行けず、近所にまめに買い物に通う日々が続いているそうです。「実は、もうすぐ父親になるんです。だから家事のサポートをメインにしています。」と照れる沓名さん。新しい命はどんな山梨の心象風景を魂に刻み込んでいくのでしょうか。

(2013年7月取材)

自然銅の標本。

自然銅の標本。

 

分析装置で土器片に含まれる元素を精密に分析します。

分析装置で土器片に含まれる元素を精密に分析します。

 

県立博物館の中庭に輝く清らかな水。

県立博物館の中庭に輝く清らかな水。

 

県立博物館には、山梨の歴史にまつわるものがたくさん収蔵、展示されています。

県立博物館には、山梨の歴史にまつわるものがたくさん収蔵、展示されています。

 

武田神社の一角で、武田氏館跡の歴史について説明してくれました。

武田神社の一角で、武田氏館跡の歴史について説明してくれました。

 

もうすぐ父親になる沓名さん。生まれてくる子どものことを語ると顔がほころびます。

もうすぐ父親になる沓名さん。生まれてくる子どものことを語ると顔がほころびます。